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2010年9月19日 (日)

私の好きな小説家ーーサラ・パレッキー/ウォーショウスキー・ノヴェル

 息子のアメリカみやげが、サラ・パレッキー『ハードボール(HARDBALL)』。『ブラックリスト』以来、新しいV・I・ウォーショウスキー・ノヴェルを読んでいなかったし、新しいのがでたことも知らなかったので、驚喜して読み始めた。息子によると、今年三月の出版らしい。しかも7月には最新の『BODY WORK』がでたということ。これは売り切れで買えなかったと。

 探偵小説を英語で読む楽しみをおぼえて10年ほど。ベルギー留学の時に、パレッキーとル・グウィンのファンタジーをもっていった。ル・グウィンは訳本があるので、英語で読むときはくわしく読んで、翻訳ではわからないニュアンスを辿るのが楽しい。どうしてもおかしな翻訳箇所をみつけることもある。

 V・I・ウォーショウスキー・ノヴェルは、何よりも熱中してよむ。そして翻訳のない時に英語で読み、以前のもので中味を忘れた頃に英語でよむ。これだけ好きなのは、結局、VICそしてパレッキーが同世代だからだと思う。そして、VICが私の世代に共通する(共通していた)社会的な正義感情と怒りの感情に火をつけるからだと思う。

 VICを熱中して読む中で、探偵小説は、ページの半分がわからなくても読み飛ばすという読み方をおぼえた。熱中して読むから、読み飛ばさざるをえない。そういう読み方でも、話しの大筋がわかってくれば、最後に犯人が誰か、仕掛けられた謎は何であったかだけはわかる。そして、探偵小説の細部は、翻訳本で読んだ場合でも、頭に残ってはいないのだから、結果は同じこと。

 『ハードボール(HARDBALL)』の最初の「THANKS」には、パレッキーのシカゴ大学時代の話しがでてくる。彼女は1966年の夏休み、ペデスビタリアンの教会の地域サービスの活動をして、シカゴの町が自分の一部になり、自分がシカゴの町の一部になり、そして自分の人生の形をきめたといっている。この本で彼女は彼女自身の1966年の経験を思い出し、そこに物語の原点をおいている(らしい、というのはまだ最初の何ページしか読んでいないので)。

 その原点の風景の中に、マーティン・ルーサー・キングがいる。キング師、REV.Martin・Luther・Kingが、彼女の担当地域のそばに、この年の正月から住み始めており、シカゴの公民権運動にも参加しはじめていたという。私は国際キリスト教大学が母校だが、私の大学でも、あの時代、キャンパスに満ちていたThe Reverend(敬愛する) Martin・Luther Kingへの尊敬の雰囲気がなつかしい。

 パレッキーが、ウォーショウスキー・ノヴェルの序文で、自分の大学時代のことを書いたのは初めてではないだろうか。そして、序文の途中に記された「最近、長く眠り込んでいた希望の感覚が、生きかえりはじめた(Lately, my long-dormant sence of hope has come back to life)」という希望の言葉を、彼女の本で読むのもはじめてのように思う。これを通読するのは、本当に楽しみである。

 けれども、小説のはじめにVICとモレルとの別れが描かれるのはショック。彼らは、イタリアで二ヶ月過ごした後、モレルの身体が治り、ジャーナリストとしてイスラマバードへ行く。その時、彼らはほとんど「さよなら」をいう寸前であったという。これは、是非、別れのままにならないように願うというのは、たんに男の私的な感情ではない。たしかに、怪我の後に、モレルは脇役にまわってしまった。けれども、彼はウォーショウスキー・ノヴェルの中にすでになじんでしまっている。モレルのイメージがもう一度復活してほしいと思う。

 息子によると、アメリカの人々の対人関係は密接で親密なところがあるということ。ウォーショウスキー・ノヴェルには、そのような親密さが危機に瀕するときのパニックの感情が反映しているのかもしれない。そういう親密さは限られた範囲で、ぎゃくに格差と距離が目立つ部分とのギャップが何ともいえないということだが、たしかにIntimateな部分と社会的なギャップというのがみえやすい社会なのだろう。

 親密さを求めることと、私たちの世代に共通する(共通していた)社会的な正義感情はどこかで結びついているものなのかもしれないと思う。それが怒りではなく、パニックではなく、希望に結びつくことを誰しもが願うが、しかし、日本では、私たち世代の「希望の感覚」は、一般には、「長く眠り込んでいる」ままである。

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