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2011年3月16日 (水)

9世紀火山地震(8)ー関東の地震、878年

 15日、帰宅途中。電車の中で書いていたが、快速が津田沼止まりとなってしまい、各駅停車に乗り換えのため、いまは津田沼駅ホームで書きついでいる。
 元慶二年、つまり西暦878年の「関東諸国大地震」についてふれておきたい。

 まず、『三代実録』の元慶2年9月29日条を読み下しておく。

 夜、地震す、この日、關東諸國の地、大いに震裂す。相模・武藏は特にもっともはなはだしとなす。その後、五六日も、震動いまだ止まず、公私の屋舍は一つとして全ったきものなし。あるいは地の窪陷して、往還不通ぜず、百姓の圧死すること勝げて(あげて)記すべからず。

 

  簡単に大意をとっておくと「関東諸国で大地が、震え、地割れや地滑りが起きた。相模・武蔵などの南関東での地震がひどかった。そして5日も6日も強い余震が続いたという。公私の建物が、ほとんどすべて被害をうけた。また土地が陥没して、道路がつぶれ、交通不能になった。こういう中で、多くの人々が数えられないほど死んだ」ということになる。

 冒頭に「夜、地震す」とあるのは、京都で地震が体感されたということを意味する。そして、後に関東諸国から報告があり、その日に関東で大地震があったことが分かったのである。これも京都で体感された地震の震源地が史料からわかる例であることになる。
 関東諸国からは、詳しい報告が中央に提出されたに違いないが、残念ながら、それは残っていない。これが残っていれば相当のことがわかるはずである。菅原道真はそれを読んでいたであろうか。なお、少なくともこの史料による限り大きな津波は起こっていないようである。

 いま、もってきた石橋克彦氏の『大地動乱の時代ー地震学者は警告する』(岩波新書1994年、129頁)によれば、この地震は相模トラフ(相模湾の奥から東南へ日本海溝に向かって続く海底の大規模窪地)から沈み込んだ、フィリピン海プレートに存在する震源断層面を震源とするものであるということである。

 これは富士の宝永の噴火を誘発した元禄大地震(1703年)、そして大正の関東大地震(1923年)と同様の構造の地震であるということで、様々な証拠から、200年から300年ごとに繰り返されてきたものと考えられるという。その意味では、関東大震災と同様の構造の地震はまだ先ということになる。

 『大地動乱の時代』の発行は、1994年。石橋先生は東海地震、つまり紀伊半島方面の南海トラフにつづく駿河トラフ(駿河湾のトラフ)に淵源する地震の形態があることを明らかにされた方だが、これを読んでいると、地震が、おのおの独自な条件と構造をもち、各地の地殻の構造にもとづいて発生するものであるということがよくわかる。

 江戸時代の地震史料についての詳細な分析があるのを読むと、歴史学者としては、日本の自然の重大な特徴として、もっと研究にエネルギーをさくべきであったことを反省させられる。長期的な視野をもって、事態を乗り切るためにも、多くの方々に、この本を読まれることをお奨めしたい。


 しかし、これを読みながら、九世紀の「大地動乱の時代」を考えると、九世紀が実に不運な時代であったことを思い知る。『かぐや姫と王権神話』で火山の噴火を論じた時も、そう思ったが、しかし、火山噴火は地殻変動の現象であって、地震は大地の奥深い変化それ自身に根ざしている。

 そして、九世紀は、太平洋プレートの三陸沖への沈み込みに淵源する陸奥国の貞観地震(869年)、そして、この関東大地震(878年)、さらに駿河・南海トラフで発生した仁和地震(887年)などが連続して起きている。これに火山噴火がともなっていた訳だから、その印象はすさまじかったであろう。これは各地の大規模地震の発現周期とマグマの活動が、九世紀に同期した、シンクロしたということなのだと思う。

 現在はたしかに「大地動乱の時代」に入りつつある。しかし、そうはいっても、我々、21世紀、つまり我々の子・孫の世紀は、九世紀ほどの不運な世紀ではないと思う(ただ、いうまでもなく、人為的な災害の拡大は、自然の責任ではない。その意味で原発の有り様は歴史的には決定的な問題である)。
 しかし、ともかく、九世紀の地震史料を読みながら危機意識を増幅させるというのではなく、むしろ、そのような長期的な視野をもちたいものだと思う。

 先日から、このブログで、九世紀地震史料を読んでいるが、そのなかで、歴史学は、そのような長期的視野を、どのように提供できるかということを考えている。そのためにはまずは地震学と地球科学から学ばねばならない。

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