地震火山21九世紀の火山活動と日本神話
以下は『かぐや姫と王権神話』で書いた九世紀の火山活動の概観。日本神話との関係については、火山論は『竹取物語』との理解でもきわめて重要という観点からさらに詳しく述べた。
しかし、ここでは、九世紀の火山活動の総論として掲げておく。先日掲載した鳥海山についての史料が含まれているが、もっとも重要なのが富士火山論であることはいうまでもない。その点検によって、かぐや姫はやはり火山の女神であるという結論としたが、火山論としても富士が中心となることはいうをまたない。ただ、いま考えると、地震の神が男性か女性かは重要な問題で、火山神論は地震神論によって補充されねばならない。
以下、引用。『かぐや姫と王権神話』74頁。
『竹取物語』が成立した九世紀の日本は、日本史の中で、火山噴火がもっとも激しかった時期である。この時期、火山に関わる神話が新たな生命をもって復活したことは疑いない。八六四年(貞観六)の富士の大噴火については、カグヤ姫の昇天との関係で、後にふれるとして、そのほかの主要な噴火・火山活動に関する記事をあげると、右の富士噴火と同じ年、九州では、阿蘇山が噴火し、健磐龍命神の神霊池が沸騰して天に昇り、山頂の「三石神」のうち二つが崩壊している。阿蘇の神は噴火の度に位を上げていったらしく、健磐龍命神は八四〇年(承和七)の従四位下から八五九年(貞観一)には正二位、阿曽比咩神は八五九年(貞観一)に従四位下であったものが、八七五年(貞観一七)には従三位にまで位を上げている。また隣の豊後国でも、八六七年(貞観九)に、別符の鶴見山山頂の「火男神・火売神」の神社の脇にあった火山湖が、三日のあいだ噴火し、「磐石飛び乱ること、上下に数なし。石の大なるは方丈、小なるも甕の如し」であったという。
東北地方では、八七一年(貞観十三)、出羽国の鳥海山の大噴火がある。鳥海山は以前から噴火を繰りかえしており、麓の大物忌神社はすで従三位の神格をもっていたが、このときの噴火は、「巌石壁立」(巌が壁のように聳える)の山頂で「火あり、土石を焼き、また声ありて雷のごとし」という大噴火で、土石流で氾濫した川を「十許丈」の二匹の大蛇が多くの蛇をしたがえて川を逃げ下るのが観測されている(『三代実録』)。
このような火山噴火を当時の人々がどう見ていたかをもっともよく伝えるのは、伊豆国神津島の海底噴火であろう。八三八年(承和五)のこの大噴火の爆裂音(空振)は京都にまで響き、降灰が関東から近畿地方におよんだ。人々が幻視した風景は、神津島に十二人の天の火をもった童子たちが降り、海に火を放ち、地に潜り込み、大石を震い上げ、その結果、巨大な「伏鉢」のような「壟」を中心に、石室・閣室の石組みができあがり、それらは堊や白石、金色の礫砂などによって塗り固められたというものであった(『続日本後紀』)。
『日本書紀』『古事記』に頻出する、高御産日神らの諸神に関わる天の磐船、磐座、磐戸などの「磐石飛び乱る」風景は、このような火山爆発の記憶を核として幻想されたものであろう。これこそが日本神話の原風景なのである。このタカミムスビは、天皇制の始祖神話である天孫降臨神話の本来の主催神であり(三品彰英一九四二)、神話世界の最高の天空の神であるが、その指示の下に天孫・火瓊瓊杵尊が降臨した山が、現在でも噴煙を上げている日向高千穂峰であったことは、タカミムスビが天空を支配するとともに火山神としての性格をもっていたことを示している。
しかも、『日本書紀』(顕宗紀、五世紀末の大王)には、日神と月神が、おのおの「天地を鎔造した功」をもっている「我が祖」、タカミムスビを祭る田地を設定せよと託宣したという記録がある。この「天地鎔造」、金属を溶かすようにして天地を作り出したという神話のイメージも、火山の爆発と溶岩のイメージを含んでいるのではないだろうか。
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