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2011年5月 7日 (土)

地震火山26白頭山の南北朝鮮共同調査

 白頭山の共同調査を南北朝鮮が合意したという記事が新聞にあった(2011年4月13日朝日)。中朝国境の白頭山の火山活動をめぐる二回目の専門家会議を開き、6月半ばに現地で共同調査を行うことを合意したということである。韓国が白頭山の現地調査に参加するのははじめてで、5月に学術討論会も開くという。
 これに日本・中国も参加していくということになると、東北アジアの自然史、地震史、火山噴火史の研究は進むだろう。それが同じ地質学的な自然の下で生活しているという常識に結びついていくとよいと思う。
 私は、九州大学の江原幸雄先生の『中国大陸の火山・地熱・温泉』(九州大学出版会)を読んで最初に知ったのだが、この地域は火山を共有する地域である。地球科学では、西北部九州の地震・噴火は、アムールプレートの下に沈み込んだフィリピンプレートからのマントルの上昇に由来し、それは韓国から東北中国までの地震・噴火の運動と地殻の運動としては連続するものだという。
 地殻の運動は、日本列島に極限されて動くものではなく、ユーラシア東北端全体で連動しており、そのため、東北中国、韓国、日本の地震活動は連動し、しばしば同時的に発生するという。とくにアムールプレートの動きは複雑で、アルタイ山脈ーバイカル湖付近ースタノボイ山脈と続く、プレート西北端の周縁地帯や、中国大陸に位置するプレート南部周縁地帯にも地震地帯を発生させている。この問題ではアムールプレートの実在の論証が大きかったらしい。
 このようなユーラシア東北端のプレートとマントルの運動の全体像が、現在、プレートテクトニクスの研究の一焦点となっているらしいが、そこに広範囲な連動が存在することは認められている。たとえば韓国の歴史地震の中で最大規模といわれる江原道の地震は一六八一年に起きているが、中国でも史上最大級といわれる山東省の郯城地震が一六六八年に起きている。そして日本でも、その後しばらくして、一七〇三年の相模トラフに淵源する江戸・関東大地震、一七〇七年の富士山の大噴火をともなった東海・南海地震が起きている。これは偶然的なものであるとは考えにくいという(都司嘉宣「韓半島で発生した最大級の地震」歴史地震20号)。
 このような東北アジアレヴェルの地殻運動の連動を素人が考えてもしょうがないのだろうが、貞観地震との関係で注意しておきたいのは、貞観地震と同型の地震で「奥州ニ津波入テ(中略)カヘリニ、人多取ル」といわれた室町時代、一四五四年一二月二一日(日本王朝暦、享徳三年一一月二三日)の地震が韓半島での地震と連動していた可能性が高いことである。
 これは『大日本地震史料』をみれば書いてあることだが、この室町時代の地震の、ちょうど一月後、一四五五年一月二四日(朝鮮王朝暦、端宗王二年十二月甲辰)に、朝鮮の南部、慶尚道・全羅道などで大地震があって多数の圧死者がでた(『朝鮮王朝実録』)。
 貞観地震の前後の史料には、このような韓半島にまで及ぶ地殻運動の連動性を示すものはないが、ただ貞観地震の約二月後に、肥後国において相当の規模をもつ津波地震が発生している。今回も雲仙の噴火が活発化していて、熊本は地震が増えている。そうだとすると、史料は残っていないものの、貞観地震の地殻変動が肥後国のみでなく、小規模なものであったとしても、韓半島の地殻に影響をあたえていた可能性はないのだろうか。室町時代の陸奥国津波が韓半島南部に大地震をもたらした地殻構造は、約六〇〇年の時をへだてて同じ延長線上にあったに違いないと思う。
 日本の大地動乱の時代は、東アジアの地震と火山噴火が動く時代になる可能性があるのだと思う。それを考えさせられる機会が増えるというのは、相手が地震や噴火であるだけにきついことになる可能性は高いが、事態の認識が客観的なものとして共有されていくとよいと思う。
 6月の共同調査がその出発点になるかどうか。こういう東アジアの研究者相互の関係をとっていく上で、韓国の知識人の役割は非常に大きい。

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