地震噴火55、茂木清夫『地震ーその本性をさぐる』
サムエルソンの『経済学』(上)と地震学の茂木清夫『地震ーその本性をさぐる』が、今日、届く。両方ともネットの古本屋から。
サムエルソンのは私の出身大学(国際キリスト教大学)での教科書で(上)(下)とももっていたはずが、学生時代以来の引っ越しの中でなくした。当時は相当多くの人が読んでいたはずだが、いまの人はほとんど読んでいないだろう。
記憶だけはあるが、もう一度、今の目で読み直してみたいと思って、購入。学生時代以来の知識を総ざらえして総点検するということができるというのが60過ぎた学者の楽しみといえるのかもしれない。そう、たいした楽しみという訳ではないといわざるをえないが、頭が労働用具なので、いわば道具をいつくしむ、あるいは捻挫のところを直すという感じ。自分の頭を自分で撫でてあげる。それくらいしか楽しみがないということでもある。
晩年の都留重人氏の経済学者としての本音を明らかにした発言は好感をもって読んだが、サムエルソンも、都留氏と一緒に勉学した時期には硬派の学者であったというのが、都留さんの自伝を読んでの感想。私は大塚久雄先生のゼミなので、ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』『一般社会経済史要論』(ゼミでは『プロ倫』と『要論』といった)を読み込んだが、経済学では、サムエルソンのほかは、大塚先生、スミス、マルクスしか読んでいない。スミスは近藤さんのサブゼミ。いつかいわゆる「近代経済学」(と昔はいった)を読んでみたいというのが希望だった。
大塚先生は、実際に役にたつ政策経済学としての「近代経済学」の意味をよく強調された。しかし、あれは数学がいるという感じが強く、当時は敬遠せざるをえなかった(数学はいまも駄目)。先日、古書関係でみてみたら、何と、500円なので、当面、(上)だけ購入することにした。見覚えのある、立派な装丁の本、しかも綺麗な本がとどく。ありがたいことである。
学生時代に読んだ本を再読しようなどと考えると、古本が安いのは本当にありがたい。しかし、これは文化の継続性がないということなので、よし悪しか。あるいは日本社会ではやむをえないことか。
ただ、すぐに開いて読んでいるのは、茂木清人さんの『地震ーその本性をさぐる』(東京大学出版会)。新書版より少し大きいという小さな本だが、これが異常に安い(何と五〇円)。必要になったのは、日本・朝鮮・中国の地震活動の関連性について地震学の側から書いた古典的な本らしいと気づいたため。その通りであった。日本列島、韓半島、中国北部が一直線で連なっており、その地震の活動には広域的な連関性があることを指摘されている。地震学の論文で、これを明瞭に述べたのは、管見(本当に細い管からみただけといこと)の限りでは、この本だけ。これ以降、もっと別にあるのかもしれないが、いずれにせよ、古典的な本であることは明らかだと思う。
茂木さんは、それを15世紀からの約300年、1700前後までを中心に論じられている。明瞭な図をだして論じられている。この部分、15世紀については享徳の奥州津波の史料が、茂木さんの議論を追補しうることを発見。そして、享徳の奥州津波の一月後に韓国の大地震が発生するという構造は、九世紀陸奥沖海溝地震のしばらく後に、肥後国地震があり、韓国の地震記事がみえるという構造については、以前、『東北学』に書き、このブログでも説明したと思う。
問題は、七世紀から一〇世紀の日本の「地震活動の旺盛期」についても、同様の東アジア連動構造があるかどうかで、これは、茂木さんの図の左側に追補する図を作ってみたいみたいと思っている。朝鮮については、確実にいえることだと思うので、中国についてもいえれば、茂木さんの議論が15世紀~17世紀の六〇〇年前についてもいえるということになる。
この時代の中国の地震を宇津徳治さんの「世界の被害地震の表」から落としてあり、それをコンピュータ世代の子供に頼んで、グーグルの地図の上にマッピングマッピングしてもらった。そうすると、小山真人氏のアムールプレート周縁部への近現代地震の分布図と、中国北部の同じところにマークが分布する結果となっている。ただ、七~九世紀については、モンゴル、ロシアの地震データはないから、アムールプレート北辺部(スタノボイ山脈からバイカル湖まで)の地震分布は分からないが、おそらく同じであったということは十分に推定できる。
今度は、この「世界の被害地震の表」から落としたエクセルデータの中から、マグニチュードの大きい物を中心に時代分布を調べ、茂木さんの図の15世紀~17世紀の地震分布に相似した分布が確認できるかどうかである。
これを追加でやってもらう積もり。(以下、家庭内私的会話。「ありがとう。感謝感激雨霰」)。
もし、確認できるとすると、東アジアの七世紀から一〇世紀を「大地動乱の時代」というべきことは、相当の確度でいえることになると思う。
どの分野にせよ、基礎勉強が基本。茂木さんの本をしばらく、電車で読むことにする。
今、朝の総武線。出がけに昨日の朝日新聞夕刊をみると、茂木さんが、元地震予知連会長として写真付きでのっている。元東大地震研究所所長であられたことも知る。
定年後、静岡新聞の外部論説委員をしていて、論説に浜岡原発の危険性を何度か書いたところ、やめてほしいといわれたという話。五年ほど前の話であるという。何とも、かともということである。
本郷の角で、I君からビッグイッシュウを一部。この前一冊を買ったが、昼間あう人に差し上げる積もり。
« 「平安時代史研究の課題」(Concluding Discussion of Synposium | トップページ | 折本に苦闘ーー和紙の雁皮・三椏・楮論に光明 »
「火山・地震」カテゴリの記事
- 皇極女帝の近江行幸と地震神。ある博物館での講演会の要旨。(2018.09.15)
- 日本の国の形と地震史・火山史ーー地震史・噴火史の全体像を考える(2018.09.12)
- 平安・鎌倉時代の災害と地震・山津波(『HUMAN』Vol3、2012年12月)(2018.07.07)
- 白頭山の噴火と広開土王碑文)(2017.10.12)
- 東日本大震災の宮城県以南の死者はすべて国に責任がある(2017.04.21)