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2012年3月29日 (木)

地震火山61平朝彦『日本列島の誕生』

地震火山61平朝彦『日本列島の誕生』
 今日も、京都への新幹線の中。京都出張だが、長く座りっぱなしになるので、身体が強ばるのが心配である。出張先は、まだまだ寒い。
 『日本列島の誕生』(平朝彦、岩波新書)を読み終わる。東アジアの地震発生と火山の分布について調べているうちに、この新書に概説があることを知り、しばらく前から読んでいた。私たちの世代だと、地質学は井尻正二氏の『地球の歴史』(岩波新書)で読んだ。いわゆる戦後歴史学は、とくにその初期、地質学研究者との関係が深かった。石母田さんに「地団研」の若い研究者の集団的な仕事の仕方に歴史家も学ばなければならないという文章があったと思う。井尻正二氏がボランティアによる野尻湖発掘の提案者であったこともよく知られており、それやこれやで、この本は読んでおかねばならないということで読んだ記憶がある。しかし、残念ながらよく分からなかった。井尻さんのヘーゲル解説の方がまだよくわかった記憶。
 それに対比し、この『日本列島の誕生』は、明解。水平方向への地殻の運動という視点を中心に、プレートテクトニクスの導入がどれだけ画期的なものであったかが、よくわかる。いまの子供たちは、いつ、どのようにしてプレートテクトニクスをならうのであろう。これはわかりやすい画像と動画を作れば、子供たちにもわかる話しである。防災教育のためにも、地震学のためにも、理科教育にプレートテクトニクスを小学校時代から持ち込むことが有益だろうと思う。
 去年は、プレートテクトニクスというものを知ろうとして、新妻信明氏の『プレートテクトニクス』を読もうとした。新妻氏が3,11の後にブログを書いていて、毎月読んでいるが、この本は、ともかくオイラーがでてくるので、すぐにはとても無理とあきらめていた。それに対して、本書は、人文人間にも分かりやすい。すでに相当前のものなので、現状の学説はもっと進展しているのであろうが、しかし、地球科学というものを、具体的にははじめて読んだという感じがする。
 もっとも興味深かったのは、南海トラフに蓄積される、海底の地震を契機とする乱泥流の地層、タービダイト層の話である(27頁)。これは平均すると、約500年に一度ずつたまっているという。500年に一度、富士川河口扇状地が崩れて、乱泥流となってトラフの崖を一挙に流れ落ち、四国沖まで流れて、平均30センチの厚さのタービダイト層をつくるというのである。これは南海トラフの大地震の周期をあらわしているという。
 もう一つは、東アジアの地溝帯(rift、リフト)の話しで、東アジアはアフリカ大地溝帯にならぶような地溝帯が発達している地域であるという。北からバイカル地溝帯、山西地溝帯、そして沖縄列島の北を走る沖縄トラフの地溝帯など。156頁に、これらのリフトの東北アジアでの様相が地図になっている。これらのリフト(地溝帯)は中央アジアに発するものもあるということであるが、歴史学の立場からの火山論・地震論に影響するところが大きい。
 現在考えていることに影響が大きいのはバイカル地溝帯である。バイカル湖が、毎年、若干づつ幅を広げていることは、まさにそれがリフトであることを示しているが、そこから東北にスタノボイ山脈にむけてリフトが走っている。ここに若干の火山が分布し、地震もきわめて多い。これはいわゆるアムールプレートの北限にあたるが、この地域は同時に放牧地帯の北限地域である。私は、いわゆる騎馬民族に一般的な鍛冶王神話は火山神話としての内実をもつと考えているが、このようなバイカルリフトの実態はそれに対応するものと考えることができるのではないかと思う。
 また山西地溝帯は現在も活発に活動しており、その延長線上に、中国・朝鮮国境の白頭山の火山活動が位置しており、また済州島が東北をむいた長方形をなしているのは、地溝帯の分裂・拡大方向に直行する領域に火山が噴出するからであるという。
 しかし、もう一つ面白かったのは、本書にでてくる20人ほどの地球科学者の名前である。たとえば、右にふれた新妻信明氏、高知大学の岡本真氏、東北大学の箕浦幸治氏など、この間の勉強で知った名前の研究者が何人かでてくる。20人ほどの研究者のネットワークで研究が進められるというのは、どの分野でも同じことなのかもしれない。もし、そうだとすると、「文理融合」というのは、10分野200人ほどの研究者のネットワークがあれば、相当のスピードで進めることができるものなのではないかなどと考える。

 いま、出張2日目。御寺についてまだ9時前、しばらく縁側の明るい部屋でお茶をいただく。昨日は、本当に久しぶりに旧友のT氏と二人で食事をして長く話す。T氏の「行きつけの店」。あなたには行きつけの店などというものがあるのかなどとからかう。最初の話題は、この『日本列島の誕生』の話しである。T氏と話すと、井尻正二氏の仕事への感じ方がまったく同じなのが面白い。同世代の話しはすぐに通ずるのがよいが、ようするに、「戦後歴史学」というのは、この種の文化あるいは教養の共有に支えられていたものである。「戦後歴史学」の伝統の継承に、我々の世代が役に立たなかったのは文化全体の地盤喪失のせいであって、我々の非力だけではないということか。とても我々では支えきれなかった。
 いま、新幹線の帰り。それにしても先週の石橋克彦氏の話しは重たい話しであった。石橋氏への講演依頼は最初は大学が同じT氏が仲介してくれたものなので、その話にもなる。石橋氏は歴史地震の史料蒐集は、本来、「国家事業」として行われるべきものであるとおっしゃってはいたが、歴史学の側の責任は大きい。講演会に集まった人たちの中に若手が少なかったのも気になった。

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