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2013年4月 6日 (土)

89地震学の用語法(ターミノロジー)ー(3)「地殻災害」とGeohazards

 「地殻災害」という言葉はこれまでの地球科学や災害研究の用語の中にはないが、『歴史学研究』の2013年3月号(903号)の論文「自然災害史研究の射程」で、峰岸純夫氏が提案した用語である。峰岸さんは、自然災害を(1)気象災害(a風水害、b干ばつ・冷害)、(2)地殻災害(a地震・津波、b火山爆発)、(3)虫・鳥獣害(a昆虫の大量発生、b鳥獣の作物荒らし)と区分することを提案されている。
 峰岸さんの著書、『中世災害・戦乱の社会史』を点検してみても、この「地殻災害」という用語は使用されていないから、最近、使われるようになったということらしい。ただ、右の著書におさめられた1995年の論文「自然環境と生産力からみた中世史の時期区分」に「自然災害のなかには火山爆発、地震などの地殻構造変化にもとづくものがある」(34頁)という記述があり、また同書の「はじめに」では、自然災害を「風水害、干ばつ・冷害」などと、「地震・津波・噴火」に大別しているから、峰岸さんは、このような考え方を早くからもっていたようである。
 そこに自然災害には「第二に、日本列島の地殻構造に起因する地震・津波・火山爆発などである」としてプレートテクトニクスの学説からみると、日本列島が「地震・火山列島」というべき性格をもっていること、「日本列島の歴史は、この地震・火山災害との戦いの歴史でもあった」ことが強調されていることは、私などにとっても直接の前提であった。
 さて、地殻災害という言葉を使って地震学・災害研究の方と話していたところ、Geohazardという言葉はあるが、地殻災害という用語は聞いたことがない。新鮮な言葉で利用できるかもしれないということであった。
 Geohazardsというのはgeology、地質学的なハザードで、Geohazardsの日本語訳はないようであるが、しいて翻訳すれば地質災害であろうか。しかし、日本語の語感では、地震・津波・噴火を地質災害とはいいにくい。地質というともう少し大地の表層部分をいうような漢字がある。それに対して、地殻というと、大地の深部、岩盤部分を明瞭にふくむ。それだからGeohazardsの語感は地質災害よりも地殻災害という方が受けとめやすいと思う。
 Geohazardsというと、山崩れ、土砂崩れを含むし、あるいは場合によっては雪崩などもなどをふくむような気がする。日本語の語感だと、山崩れというのは、表層的な被害で、地殻災害とはいいにくいようであるが、しかし、最近の山崩れはDeep-seated Landslide(深層崩壊)といって、地層深部における変異に関係しているということであるから、地殻災害といってもよいのかもしれない。あるいはアメリカでシェールガスの採掘が地表に広範囲な汚染Polutionをもたらしているというが、これも広い意味でのGeohazards=地殻災害といってよいのだろう。千葉九十九里のいわし博物館の爆発事故も天然ガスの床下蓄積であったことも記憶に新しい。
 以下、訳語問題の議論に移ると、峰岸さんのいう、自然災害の三類型のうち、第一番目の気象災害はMeteorological Hzardsということになり、第三番目の虫・鳥獣害は、より広くBiological hazards=生態災害といったほうがよいのかもしれない。これが欧米の自然災害の一般的な類別のようである。疫病なども広い意味でのBiological hazards=生態災害に入れられている。私は『歴史のなかの大地動乱』で、8・9世紀を温暖化・パンデミック・大地動乱の三つが同時に日本列島を襲ったという図式を描いてみたが、日本の災害研究では、ここら辺の問題や用語法はどうなっているのだろう。

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