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2013年10月 5日 (土)

「地震神話」を研究する現代的な意味(地震火山88再録)

英文を掲げたので再録しておく。写真は英文の方をみてください。富士の写真は面白いと思います。

「地震神話」を研究する現代的な意味
文理融合への歴史学からの接近

保立道久/文
史料編纂所 教授

東日本大震災と福島原発の核災害は、大学が理系・人文系を超えて
本格的な文理融合に進むことを求めている。
史料編纂所は長く地震研究所の進める古地震の研究に協力してきたが、
いま、その意味をあらためて実感している。

小平邦彦さんのエッセイが好きで、一時よく読んだ。面白かったのは「数覚」という言葉で、それは数学者の中に自然に芽生えてくる感覚なのだという。歴史学でいえばそれは何だろうと考えてきたが、「時覚」という言葉だろうかと思うようになった。
 私は一昨年から火山と地震の歴史の研究にとり組んでいる。3月に定年で史料編纂所を去るいまになって、地震研究所の歴史地震の研究に協力してきた先輩の仕事の意味を実感したのも、自分の人生についての一つの「時覚」というものかもしれないが、いま興味をもっているのは、紀元前後に南海トラフの連動型地震によって発生した巨大津波である。テレビで、海辺の潟湖の底泥の分析によって、この津波の規模を突きとめた高知大学の岡村真氏が、「我々の仕事は長い時間を扱うことです」というのを聞いた。地球科学ほどではないが、歴史学も個人の生活からみれば圧倒的に長い時間を扱う学問である。これがまさに「時覚」ということだと思う。そして、この「時覚」を養うためには文理の融合的な研究が必要だというのが最近の結論である。
 ところで、紀元前後といえば、日本の神話の創成期である。この時期の大地震が神話に反映している可能性は高い。実際、『古事記』には、海神スサノヲが怒って天に上る時に「山川ことごとく動み、国土みな震りぬ」とある。海神が地震神となるのは、ギリシャ神話のポセイドンでも同じであるという。スサノヲのいる地底の国が「根の鍛すの国」と呼ばれていることも重要で、つまり地底には鍛冶場があって、ヴァルカンのような鍛冶神がいるという訳である。
 そして、周知のように、青年神・オオナムチは地底を訪問し、そこでスサノヲの娘と仲良くなり、二人でスサノヲの「琴」を盗んで逃げ出すのだが、その琴が「樹に払れて地動鳴みき」という。この琴はスサノヲのもつ地震を起こす力を象徴するものだったのである。スサノヲは、火山噴火口から地上に逃げだしたオオナムチに対して、坂の上から「おまえは宝物を使って地上の王者となれ。そして、大国主命と名乗れ」と叫んだ。オオナムチの「ナ」とは、「ウブスナ(産土)」の「土」のことで自然としての大地という意味であるから、彼が「大国主」となったというのは大地の神が国王となったというような意味であることになる。この神話は、この列島に棲む人類にとって重要な意味をもっているのではないだろうか。
 さて、最近、危惧をもっているのは、ほとんどの人が「安全神話」という言葉を、原発について何の疑問もなく使っていることである。実態は「安全宣伝」としかいいようのないものに神話という用語を使うのは、人文学者としては大きな抵抗がある。これでは、民族的な遺産としての神話のもつ力は台無しである。大学が、社会的な要請を正面から受けとめて、本格的な文理融合に進むためには、ここらへんの感じ方から議論しなければならないのではないだろうか。私たちが責任をもつべき時間は、神話の時代をふくんでほとんど永遠に近い過去から未来まで続いているのだから。


<キャプション>
韓国で「地震神話」の報告をする時に乗った飛行機の窓から。向こう側に浮かぶのは伊豆半島。伊豆半島がユーラシアプレートにぶつかって富士山を押し上げる現場である。

小川琢治。日本の神話の地震神話という性格をはじめに指摘したのは地質学の小川琢治、つまり湯川秀樹の父であったが、歴史学は長くこのことを忘れていた。

3.11東日本大震災の時の千葉浦安の液状化。噴砂が地表で小さな富士山・火山の形をつくっている。1946年の東南海地震でも、人々は、この形を「富士山」と呼んだという。人々が、この形に地下の神の顕現を感じたことについては、保立『歴史のなかの大地動乱ー奈良・平安の地震と天皇』(岩波新書)を参照。写真は、関口徹(千葉大学工学部)撮影。


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