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2013年10月21日 (月)

峰岸純夫さんの本の書評と学術フォーラム「地殻災害の軽減と学術教育」

 ゼミの必要があって、峰岸純夫さんの本、『日本中世の社会構成・階級と身分』の書評のテキストをWEBPAGEに載せた。
 今週後半はまた台風が予想されている。災害科学を文理融合の学術体制の中核をなすものとして全力をあげて造り上げるということを考えないと、学術の社会的位置が確保できないのではないかと思う。
 各地域の詳細な地質学的な調査にもとづくハザードマップの作成が絶対的な必要なのではないだろうか。これを10年かかっても作成する計画を立てないのは、信じられない話しである。巨費を使用することになってもやむをえないのではないか。それがこの国土にいま棲んでいるものとしての世代的な義務ではないか。私はそういうように考えない人は政治や行政の中枢にいては困ると思う。
 それをすべての基礎にして、「災害予知」ということを考えなければならない。最近、「予知」という言葉は評判が悪いが、しかし、文理融合であたらしい分野を作り出しながら進める災害科学の創成という観点からしても、またその地にすむ人々の動物的な直感をも動員して未来をみる目を確保していくという作業の性格からいっても、ここでは「予知」という言葉が必要だと思う。「予測」という言葉でよいという一部の意見は、ようするに災害科学の全体を考えない。それは別の人の仕事と思っているということにならないかというのが心配である。私は、「予知」という言葉を非常にピンポイントな予測についてのみ、実際上、警報と同じような意味で使うブループリントの用語法には賛成できない。しかし、自然科学的な予測のみでなく、災害科学全体で、未解明の部分に取り組んでいこうという意味で、広い意味で「予知」という言葉を使うことは必要だと思う。
 峰岸純夫さんの仕事は平安鎌倉室町の時代を通して、はじめて災害史を構想し、研究を実践し、考古学との交流を作り出してきたことにあると思う。
Photo_4


学術会議での11月16日に「地殻災害の軽減と学術教育」というテーマでもたれるが、この「地殻災害」という言葉も峰岸さんの作った言葉である。それにふれた今年3月の東京の歴教協での私の講演の一部を下記に引用しておきます(全文は『東京の歴史教育』42号、2013年8月)


 今回の東日本太平洋岸地震と原発震災の複合という事態の中で、今、どういう教材研究が必要なのか、そして小・中・高・大学でどういうカリキュラムを系統的につくっていくべきなのかということを、みなさん、御考えなのではないかと思います。問題はたしかにきわめて大きく、私は、歴史の研究者としても、それに対応して、基本的な部分から考えなおしていくべきことが多いのではないかと思います。
 まず御紹介したいのは最近の『歴史学研究』(2013年3月号)にのった峰岸純夫さんの「自然災害史研究の射程」という論文です。峰岸さんはたんたんと書かれているのですが、それを読んでいると、端的にいえば自然史を本格的に歴史学の研究と教育の中に組み込んでいくことの重要性を改めて認識させられます。とくに私はいま地震学や災害論の研究者と議論する機会が多いのですが、彼らと話して、この論文で重大だと思ったのは、峰岸さんが、自然災害を(1)気象災害(a風水害、b干ばつ・冷害、)、(2)地殻災害(a地震・津波、b火山爆発、)、(3)虫・鳥獣害(a昆虫の大量発生、b鳥獣の作物荒らし)と区分していることです。とくに(2)の地殻災害という言葉は、峰岸さんは「日本列島の地殻構造に起因する地震・津波・火山爆発などである」と説明されていますが、災害研究のキーワードの一つになるのではないかと感じています。ヨーロッパの災害研究では、災害はMeteorological Hazards Geological Hazards Biological Hazardsの三つに分類されているということですが、峰岸さんは、それとは独立に同じ結論に達したようです。このうち、二番目のGeological Hazardsというのは地質災害とも訳せるかもしれませんが、地殻災害という訳は新鮮だというのが災害研究の方の意見でした。
 ただ、三番目の虫・鳥獣害というのは、もっと広くBiological hazards、つまり直訳すれば生態災害とでもいうのがよいのではないかと思います。いま鳥インフルエンザのパンデミック(世界流行)の危険が問題となっていますが、これもある意味での鳥獣害ですが、生態系の攪乱からくる災害という広い意味で分類した方がよいように思います。
 話のはじめに、なぜ、この災害の三類型について御紹介したかといいますと、実は、今日お話しする奈良時代から平安時代は、温暖化、地震・噴火、そしてパンデミックがまさに日本の歴史上、最初に一緒にやってきた時代だからです。地震・噴火などの地殻災害は、そのような人間と自然との関係の歴史全体の中で分析する必要があります。
 (以下略)
なお、学術会議のフォーラムのポスターの趣旨文は、次のようになっている。


 東日本大震災の後、地震学・火山学を中心とした自然科学分野と実学としての人文社会科学の連携が強くのぞまれている。そこで地震学、火山学、地 質学、地理学、歴史学(文献・考古)、防災研究などの諸分野が集まって、状況を報告しあい、地殻災害の予知・予測・警告や情報管理のあり方、防 災・地学教育のあり方、歴史地震・噴火の研究など多様な問題を討議することとした。なお、科学技術学術審議会測地学分科会より、来年度から5年間 の地震火山観測研究計画(中間まとめ)が発表されている。この計画も地震学を災害科学の一環ととらえ、文理融合研究を強調するものとなっており、 その趣旨も討議の対象となる。現在、地殻災害をめぐって、学術の鼎の軽重が問われている。文理の連携と融合の実現をめざす、このフォーラムに多くの方々の参加をお願いした い。

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