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2014年1月25日 (土)

地震火山103「災害の軽減のための地震火山観測研究計画」

Kengi20140125


 私も専門委員として参加した科学技術学術審議会、測地学分科会の検討委員会が起草し、審議会の建議として公表されたた「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画推進について」の最終PDFが届いた。

 全文はhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu6/toushin/1341559.htmにある。

 来年度から五年間の研究計画で、歴史学にとっても大事なものと思う。

 社会的な責務に直接に貢献するという筋を学術は絶対的に維持しなければならない。それは社会的分業のなかで展開される学術にとっては義務的なものであって、それへの参加を自己の人生に組み込むことは俗物たらざらんとすれば学者としては義務的な事柄と思う。もちろん、それをやったから、あるいはやっているからと意識しているからといって、「俗物」の域を抜けられるとは限らない。まずは学者でなければならないということではあるが、委員会の討議のなかで、自然科学の研究者の方々と、そういう感じ方は共通しているのだと感得できたのは、私にとってまったく新しい経験であった。

 なお、末尾に歴史学関係の重要な記載を転記します。

 要点は、(イ)災害史研究を進め、地震噴火に直接に関係しない史料も蒐集分析することを、この研究計画のなかにいれる。(ロ)地震噴火に関する史料,考古データ,地質データを 系統的か つ体系的に整理し,近代的な観測データと対比・統合しやすいデータベースを構築する。(ハ)歴史地震・噴火についての専門的な研究機関や後継者養成が十分でないという状況を解決していくなどの点にあると思う。

 これが災害科学論、地震噴火の「予知」をどう考えるかという議論の一環として展開されている。

 あとは、必要なのは、議論をし、合意をし、そして予算と人をどうにかして確保することであろうと思う。
 これはどうも不足しているように思う。すぐに大幅な予算がつくことは(要望はするにしても)困難であるとすると、民間からの寄付などもふくめて機会あるごとに人文社会科学の側も努力しなければならないと思う。

 それにしても、人文社会科学の中枢をなす法学部・経済学部、法学者、経済学者の、この問題(災害科学の推進)への貢献が少ないように思う。これは私などは彼らは給料分の仕事というものが何であるのかがわかっていないのではないかと怒りがつのる問題である。これは法学・経済学が、悪い意味で実用科学化し、彼らの学問の質とプレスティージが低下していることと関係しているだけに日本の学術にとってきわめて深刻な問題である。
 
 日本の学術世界では、現在のところ、人文学・社会学・歴史学連合のような形で「災害」についての議論が進んでいる。しかし、今後は、是非、法学・経済学の研究者が、考え方を組み直して、「災害科学」の構築と推進への参加を本格的に考えてほしいものだと思う。災害科学の問題は、結局のところ、国土計画・都市計画、自然と人間の関係に関する社会的合意などのすべての問題にかかわっており、法学・経済学の本格的な参加なしには学術の側は実力を発揮できないと思う。

  

「災害の軽減のための地震火山観測研究計画」歴史学と地震学、中国史史料などの部分
「(1) 地震・火山現象に関する史料,考古データ,地質データの収集と整理
 歴史地震・噴火に関わる史料の収集・データベース化と校訂・解釈作業を進める。その際,広い意味での災害史データにも目を配り,史料の新たな収集 を行う。 地震・火山噴火災害に関する考古データの集約は相対的に整備が遅れており,データベース化を進めつつデータ収集を強化する。さらに,地震・火山噴火現象に 関係する過去の事象と現在の状況を把握するための地質データの調査・分析を進める。これまで独立に集められてきた史料,考古データ,地質データを 系統的か つ体系的に整理し,近代的な観測データと対比・統合しやすいデータベースを構築する。
ア史料の収集とデータベース化
○ 大学は,過去の地震や火山噴火現象,それに関連する地変や地下水異常などの諸現象,及び,それによる災害に関する歴史資料の収集,調査,解読などを進め,近代的な観測データとの対比可能なデータベースを構築する。また,世界の地震・火山災害史に関する国際共同研究を進める。特に,中国史料を中心に東アジアに おける地震・火山噴火災害史料のデータを集積し,その解析を進める。
イ考古データの収集・集成と分析
○ 大学は、考古遺跡の発掘調査資料などを収集・分析し、地震や津波、火山噴火被害に関する検討を行うとともに、近代的な観測データとの統合を意図したデータベース化を行う」。

 歴史地震の研究体制に関わる部分。 
「過去の地震と噴火の史料,考古データを収集して歴史災害研究を行う組織が存在せず,後継者養成も行われていない状況は,従来から大きな問題と なっていた。歴史災害に関する学際研究は,これを解決する長期的な見通しをもって行われる必要がある。」 

災害科学としての地震学という基本方針の部分(5ー6頁)
「地震・火山の観測研究は,国民の生命と暮らしを守るための災害科学の一部として,計画を推進すべきと考える。地震・火山災害は、地震や火山噴火の発生により生じる強震動,津波,火山灰や 溶岩の噴出などの災害誘因が,人の住む自然環境や社会環境に作用し,その脆弱(ぜいじゃく)性により災害が発生する。地震や火山噴火に関する災害科学とは,災害を引き起こす地震や火山噴火の災害の発生や推移を総合的に理解し,その知見を防災・減災に生かすための科学であり、理学・工学、人文・社会科学などの研究分野が学際的かつ総合的に進める必要がある。一旦発災すると被害が甚大となる地震,津波,火 山噴火による災害を軽減するためには,長期的展望に基づき,災害を起こす原因にまで遡った理解に基づく方策を探る必要がある。つまり,自然現象で ある地震や火山噴火現象を理解し,それらが引き起こす災害の姿を予め知る必要がある。この際に,地震・火山噴火の発生の場所,規模,時期などの予測に始まり,災害の発生から,地震・火山噴火の発展段階に応じて起 こり得る災害の推移を予測することが重要である。観測研究計画は,以上を踏まえ,防災,減災にも貢献できる研究として機能すべきである。これまでは地震や火山噴火の発生予測ができればおのずと防災・減災に貢献できるという考え方で計画が進められてきた。この考え方を見直し、地震・火山噴火の発生予測とともに地震・火山噴火による災害誘因の予測の研究も行い、それらの成果を活用することにより防災・減災に貢献するという考え方へと移行する。今がまさにその転換点にあると認識する。
 これまでの計画では、地震及び火山噴火「予知」という言葉を使用してきた。予知という言葉は,一般的には「前もって知る」ことに関して幅広い意味で用いられているため,地震や火山噴火に関する最近の理学研究では,定量性を念頭においた限定的な語感をもつ「予測」という言葉が好んで使われるようになっている。しかしながら理学・工学・人文社会科学の研究分野の専門知を結集して、総合的かつ学際的に研究を進める災害科学においては、むしろ「前もっ て認知して,災害に備える」ことを幅広くとらえて「予知」という言葉を用いる方が妥当である。災害の根本原因である地震や火山噴火の発生と、それらが引き起こす災害誘因をともに予測して、地震や火山噴火による災害の軽減につなげることの意味は重く、必要性も大きい。これからは、自然現象である地震や火山噴火の発生予測にとどまらず、災害の発生までを視野に入れた災害の予知を目指す学術研究として計画を推進する必要がある。」

文理融合の原則の部分。
「国民の生命と暮らしを守る実用科学として,地震・火山噴火災害に関する科学(災害科学)が活用され,防災・減災に効果的に役立つためには,地震 発生・火山噴火の仕組みを理解する基礎研究,それらを予測する応用研究,さらに,防災・減災に役立てる方策を示す開発研究のそれぞれを体系的・組織的に進める必要がある。
東日本大震災を踏まえた科学技術・学術政策の在り方の検討の中で,基礎研究,応用研究,開発研究のいずれの段階でも,研究者の内在的動機に基づく 学術研究,政府が設定する目標などに基づく戦略研究,政府の要請に基づく要請研究の三つの方法によって進められるべきであることが指摘された。ま た,学術研究においても課題解決とともに自ら研究課題を探索し発見する行動が求められている。さらに,地震・火山噴火研究においては,人文・社会 科学も含めた研究体制の構築,海外の地震・火山噴火多発国との連携強化,防災や減災に十分貢献できるような研究体制の見直しなどが指摘されている(東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議),平成25年1月17日)。
 観測研究計画は,地震や火山災害の軽減という社会の要請を踏まえた課題解決を目指し,全国の大学,研究開発法人,行政官庁が協力して推進する研究 計画である。地震・火山の災害軽減に必要な災害予知は,その手法が未だ確立していないので,研究者の創意工夫に基づいて体系的かつ継続的に推進す る必要がある。そのため,学術的な基礎研究を主体として実施する観測研究の推進体制が必要である。また,成果を社会の防災・減災に効果的に役立て るためには,政府の地震・火山噴火防災施策で設定する要請や目標を十分考慮し,防災・減災に貢献できる体制を構築する必要がある。
 大規模な地震・火山噴火の発生間隔は人間の生活時間に比べて長いため,長期にわたる継続的な観測・調査と観測データ・資料の蓄積と総合的な解析 を,地震・火山噴火研究全体として実施する体制が必要である。観測データ・資料及び研究成果のデータベースの構築などの研究基盤の開発・整備に努 める一方,現在の技術では困難に見える観測や解析の新展開を図るため,新たな技術開発を行う。
 地震及び火山噴火などの自然現象に起因する災害誘因だけでなく,地形・地盤などの環境や人間社会の持つ脆弱(ぜいじゃく)さが災害素因となり,災 害の大きさが決まる。本計画を災害科学の一部として捉えた場合,これまで実施してきた災害誘因としての地震及び火山噴火研究に加えて,災害素因と の関係を意識して研究を進めることが必要となる。このため,理学だけではなく,防災学や工学,人文・社会科学などの関連研究分野との連携を図りつ つ,災害科学を推進する。また,地震や火山噴火現象の推移を理解し,予測するには,近代的な観測の実施期間が短すぎることから,歴史学,考古学な どと連携して過去の事例を調査する歴史災害研究を行うことが不可欠である。ただし,過去の地震と噴火の史料,考古データを収集して歴史災害研究を 行う組織が存在せず,後継者養成も行われていない状況は,従来から大きな問題となっていた。歴史災害に関する
学際研究は,これを解決する長期的な 見通しをもって行われる必要がある。」

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