地震火山106遺跡の災害痕跡をデータベース化へ 奈文研、地震対策に
遺跡の災害痕跡をデータベース化へ 奈文研、地震対策に活用
日経3月24日の記事より。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2000J_Q4A320C1CR0000/
全国の遺跡から巨大地震や津波の被害予測につながる情報を得ようと、奈良文化財研究所(奈良市)は20日、4月から災害痕跡のデータベース化に乗り出すと発表した。5年計画で実施。全国の発掘調査報告書から、地震や津波の痕跡を拾い上げて南海トラフ巨大地震の対策にも活用する考えだ。
阪神大震災以後、各地で出土した災害痕跡への関心は高まっていたが、東日本大震災で古文書の記録や考古データを対策に反映させようとする動きが活発になった。
地震の科学的な観測は明治以降と歴史が浅く、数百年以上の間隔で起こる地震の予測は難しいのが実情。869年に三陸地方を襲った貞観津波の痕跡の研究も東日本大震災に生かされなかった。
奈良文化財研究所は、新たに採用する専門スタッフのほか地質や堆積物の分析に詳しい研究員で痕跡を集めるとともに、地方の発掘担当者に呼び掛けて研究会を開催し、情報を共有するネットワークを深めていく。
同研究所の難波洋三埋蔵文化財センター長は「考古学が何十年にもわたって蓄積してきたデータを使い、被害軽減に貢献できる重要な仕事になる」と話している。〔共同〕
NHKの人から連絡があって、表記の記事を知る。本格的に進展することを願う。
ともかく、3,11から3年目、歴史学・考古学の学界が体制的に問題に取り組んでいくということが出発したということである。ぎりぎりまにあったということであろう。
ただ、気になるのは、第一に、奈良文化財研究所は文化財機構に属することである。これは本来は自然科学研究機構、人間文化研究機構という学術の世界に存在する巨大な二つの機構が、文部科学省などの全面的な協力と支持のもとに、日本の学術予算の相当部分を使用しているという自覚と誇りのもとに、学際的な研究として展開するべきものである。奈文研などの動きをふくむ予算は、地震火山観測研究計画の予算であるが、その全体でも4億強にすぎない。地震噴火のための観測装置やプロジェクトのためにはたしかに相当の予算がかかっているが、これは日本の情報社会のなかで、いわば経済的な意味での国土維持管理費である。必要な予算という点からみれば、純粋の研究予算は極端に少ない。
自然科学研究機構と人間文化研究機構は、それを十分に知っているべき立場にあり、自ら責任をもって体制を構築しなければならないはずである。そういう動きが機構中枢から生まれてきていることを知らない。そういう普通の通常の常識感覚もないから、理研で顕在起きているような問題が起こるのである。そんなことは明らかだ。社会的責任と任務の意識が不健全だから、学問が不健全になるのである。分かり切ったことだ。
第二に、考古学との関係では、責任が大きいのは歴史の文献の方でいけば「古代史」である。歴史学における地震史の研究のためには、考古学と文献史学の協力が必要であるが、そのさい、研究の内容からいって、文献史学の側では「古代史」に応分の役割を果たしてもらうことが決定的である。
「古代史」のアカデミズムは、そのことを忘れているのではないか。若手の研究者は急速に仕事を始めているが、しかし、中年以上の中枢メンバーは遺跡保存運動に本格的に貢献したことがない。いわばサラリーマンである。
古代史の文献学は、竹内理三・石母田正が取り組んだ伊庭遺跡の保存問題、そして鬼頭清明さんなどが取り組み奈文研が全力をあげた平城京の保存問題以来、考古学と協働して、本格的に文化財を守る運動を組織していない。それがいまになって否定的な側面がでてきている。
「古代史」学界は、いわゆる貞観地震について、3,11前に一本も論文を提供していなかったということに傷みをもつことはないようにみえる。そういう声を聞いたことがない。これも非常識きわまる問題である。
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