小学校でプレートテクトニクスを教えよう。ーネパールの地震のこと
小学校でプレートテクトニクスを教えよう。ーネパールの地震のこと
ネパールの地震の死者が4000近いというのが今日の新聞であった。阪神大震災、アチェの津波、東日本太平洋岸地震と続く追悼である。
地上の命という点で変わりない。多くの死者。
阪神大震災では6437人、東日本太平洋岸地震が18475人(行方不明をふくむ)の死者を出している。明治以降、日本で1000人以上の死者を出した地震は12回に上る。
地面がゆれて裂けるというのは最大の不安である。
地震や噴火について、小学校・中学校・高校で、どういうように、どういう順序で教えていくかを真剣に議論すべきだと思う。私はプレートテクトニクスを早い時期からカリキュラムに入れることが決定的だと思う。
なぜ、ジャーナリズムは、そういう問題提起をしないのであろう。日本のジャーナリズムは前進的な問題提起をすることが少ないのではないか。政治や社会のあり方について一歩、離れて議論することは大事であろうと思う。しかし、社会にとって緊要な問題というものを前進的に議論し、誰でもが賛成できることについて、しかし、それを実現するためには実際には覚悟と配慮がいるという問題について、集中してキャンペーンを張っていくということはもっとできるのではないか。
地震については、もっとも重要な問題は、学校教育で、何をどう教えるべきかを少し長い視野で継続的に議論することだと思う。
中心は、小学校でプレートテクトニクスの学説を教えることである。いまの子供たちは、高校でも正規の授業で地学をとらなければプレートテクトニクスについて教えられることはないというのが、一昨年、高校で歴史地震についての授業をやった時に知ったことであった。ここ20年ほど、地学教育の時間数が、歴史教育とともに一貫して減少してきた。これは政府や文部科学省がそういう政策をとってきたということだが、東日本太平洋岸地震後も、大きく抜本的に改善されたとはいえない。
プレートテクトニクスの学説というのは、わかりやすい画像と動画を作れば、子供たちにもわかる話しである。防災教育のためにも、地震学のためにも、理科教育にプレートテクトニクスを小学校時代から持ち込むことが有益だろうと思う。
小学校では、同時に、その地域の地震の歴史、そして噴火の歴史をカリキュラムのなかに組み込まねばならない(私見では、日本の神話や民話には地震に関係するものも多いので、それを教材としてもよい)。
中学校では、小学校でやったことを詳しく教え、同時に防災教育を行う。そしてその地域の歴史地震、歴史噴火については立ち入って教える必要がある。
高校では、地球科学全体のなかで、プレートテクトニクスを教えるということになる。また日本と世界の歴史地震、歴史噴火についても全面的に教えることになる。
これをやっておけば、南海トラフ大地震にむけても相当話しが違ってくると思う。
また今回のネパールの地震についても理解が異なってくる。ユーラシアの真ん中と端っこでも、人の命の価値は同じである。我々が同じ運命の下にあるということを、ユーラシアの地震の全体のあり方を知った上で、考える力をもつかどうかはきわめて大きな問題だと思う。
ネパールの地震の発生機構が東京大学地震研究所のHPにのっている(http://taro.eri.u-tokyo.ac.jp/saigai/2015nepal/index.html)。この地震は、インドプレートが毎年5/6センチ北上してユーラシアプレートに衝突していることを原動力とする地震であるが、日本で地震が発生する条件にとっても他人事ではないというのを、石橋克彦氏の『南海トラフ巨大地震――歴史・科学・社会』(岩波書店、2014年、叢書、震災と社会)で知った。
この本では、著者が主張して有名になった駿河湾地震説が、「アムールプレート東縁変動帯仮説」に新らしい形で統合されている。アムールプレート(以下AMプレート)とは、中国の南部地塊を中心とするユーラシアプレートの部分プレートであり、これが毎年一定のスピードで東進しているという。そしてAMプレート南東端が、太平洋プレートと押し合うようにして、静岡の遠州ブロックまで伸びており、南海トラフ巨大地震によってプレート間の固着が剥がれると、それを条件としてAMプレートが一挙に東進し、糸静線断層帯周辺が破壊されるという。
これが、著者が新たに定式化した「駿河湾地震」の発生機構である。著者によれば、この仮説によって、南海トラフ巨大地震前後に、北海道沖から下ってくる日本海東縁変動帯からフォッサマグナ、中央構造体沿いに発生する地震・続発地震などが理解可能になるという。またプレート間地震と内陸地震の関連の基礎理解の道が開かれるともいう。
この「アムールプレート東縁変動帯仮説」は地震学界のなかでも論争は続いているようで、もとより、私には、この仮説の地震学的な評価はできないし、また正しく要約しているかどうか自体にも自信はない。
しかし、この本を読んでいると、この仮説には強い説得力がある。
ともかくインド亜大陸の北上衝突によって中国大陸が東へ押し出されることを原動力とするというAMプレートの東進の観察を基礎に構築された雄大な仮説である。
これが学説として具体性をましていけば、日本列島の自然史を現在と関係させて理解するのみでなく、自然史の側面からユーラシアというものを人ごとでなく、考えられるように思う。早く地球科学の側で論争が進み結論がでるのを期待したいものである。それがあれば、ユーラシアの地震というものをみる目が異なってくると思う。
なお私が興味があるのは、朝鮮半島北部から大興安嶺にスポット的に続く、火山帯が、アムールプレートの北の境界をつくる、バイカルリフト帯(Baikal Rift Zone。バイカルからカラフト北部まで続く) にそって発生しているらしいという仮説であって、これは東北アジアで火山神話が生まれていく自然史的な前提ではないかという問題である。
以上については、このブログで、上記石橋克彦著書、および平朝彦の著書に関係して書いたことがあるので参照願いたい。
また、私は一昨年、地震研究の国家プロジェクトの基本を策定する文部科学省の委員会の委員をやったが、そのときに議論して答申に入った、地震・噴火の学校教育における扱いについての文章も下記に引用しておく。ただ、この文章では抽象的すぎたかも知れない。
「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について、建議」(平成25年11月8日、科学技術・学術審議会)
」
(5) 社会との共通理解の醸成と災害教育
国民や行政機関の担当者などに,防災・減災に関連する地震・火山現象の科学的知見や,現在の地震・火山の監視体制,予知や予測情報の現状を正しく認識してもらうため,関連機関が協力して,研究成果を社会に分かりやすく伝えるための取組を強化する。その基礎として学校教育や社会教育などに,地震・火山噴火についての豊富で体系的な情報を,自然科学的知識のみでなく,災害史や防災学など人文・社会科学分野の知識も含めて提供する。
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