2割政治をどうみるか。少数意見を押し通すことは許されない。
今日15日。衆議院の安全保障法案の特別委員会で強行採決があった。
強行採決というと、私などは小学生のころの1960年の安保条約の採決を思い出す。安倍晋三首相の祖父の岸信介がやったことであるが、そういう意味では歴史というのは続いているものであると思う。
しかし、まったく違うことがある。それは自由民主党の得票率である。1958年の第28回の総選挙で自民党の獲得した得票率は57.80%。ようするに6割の支持である。国民のなかでの厳密な支持率でも、投票率が76.99%であるから44.5%はあったということである。
それでも60年の強行採決のときには、それでも石橋湛山、河野一郎、松村謙三、三木武夫らの自民党政治家が欠席、あるいは棄権した。
そして60年安保成立後の第29回総選挙での自由民主党得票率は57.56%。やはり6割の支持をえている。投票率は73.51%であるから、国民のなかでの厳密な支持率でも、42.31%あったのである。
現在の自民党は、先回の総選挙では、比例は自民党は33パーセントの支持であるから、国民のなかでの厳密な支持率、純得票率は17、16パーセントとである。
ようするに2割政治である。正確には2割弱政治であろうか。
6割政党が行う「強行採決」と2割(弱)政党が行う「強行採決」はまったく意味がことなる。岸信介は国会への請願行動について、「それは一部だ。声なき声がある」といった。それは請願行動の意義を低く評価するためにいったことではあるが、自民党が支持されていたことは事実である。しかし、現在は大きくことなっている。以前よくいわれていた自由民主党の長期低落傾向も極まれりということである。
しかも、直近の総選挙は昨年12月であったが、そこでは今回の「安全保障関連法案」は争点となっている訳ではない。本来、安倍首相は「改憲」を主張していたのであり、それがうまく行かないのをみて、今回の法案を急遽提案したのである。こうして問題は「九条が好きか、どうか。改憲論者かそうでないか」とは違うレヴェルになってしまった。
さらに世論調査によれば、「安全保障関連法案」の今国会成立については、読売でも63%の人びとが反対であり、賛成は25%にすぎない。これでも2割政党が強行姿勢を続けようとするならば、それは異常事態である。
多数決は重要であるというように、私は考えるが、こういうやり方は多数決とはいわないだろう。少数意見を押し通すということではないか。自分たちは少数ではないと思っているのであろうか。自由民主党の議席数は自分で作った小選挙区制の反映である。自分で土俵を作っておいて、「多数」を称するのはフェアではない。
国会で、内閣に聞いてほしいことは、「2割の支持しかない政党として、6割の国民が反対している採決をしてよいと思っているのか。それはどう理由が付けられるのか」ということである。
これに対しては、例の「ご理解をいただけるように説明につとめるのが責任だと考えております」などという答弁がされるのであろう。
それに対しては、「あなたの政党は2割政党であり、しかもこの法案については世論調査のうちの2割のみが今国会成立に賛成となっている。2割をクリヤーすれば、やっていいと思っているのか。6割の人が理解しない。反対であるといっているのは理解力がないだけだと思っているのか。普通、世間では、そういう感じ方は人を馬鹿にしているという」と畳みかけてほしい。
宮崎駿監督の外国特派員協会での講演をブロゴスが書き起こしたものを読んだ。「歴史というものに対する感覚がひどく鈍くなっているんだと思います。いま、歴史のある場所にいるんだという感覚が鈍くなっていて、このままずっと続くんだろう、みたいな感じがこの国に蔓延しているんだと思いますね」とあった。
訥々とした語り方に共感するところが多い。私なども学者であって、一種の職人である。政治の仕事は貴重な仕事であるとは考えてはいるが、それを仕事としている訳ではない。一人の人間として、自分の職分、ベルーフを果たすしかないだろうと思う。もちろん、いまの仕事が一しきりついたら国会周辺にも行こうとは思う。
いまもっぱら地震・噴火論に研究をしぼっており、その関係で、原発や地震・噴火対策がいまの日本にとってもっとも重要であるという印象が強い。こんなことをやっていてよいのかと思う。いわんや2割政党である。
そして、最後に、反省を一つ。
私は1948年生まれだが、以上を書いてみて、もう1960年から70年頃のことを正確に思い出せなくなっているのを自覚した。歴史家としての仕事がもっと昔のことなので、最近のことは忘れてしまうのである。かくてはならじ。
そこで、いわゆる「戦後史」の基本の本や統計も買っておくことにした。
また、上記の得票率は娘に調べて貰ったものだが、データソースはウィキペディアなので、今度、はじめてウィキペディアにカンパすることにした。
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