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2016年6月16日 (木)

おかしなアメリカ大統領選挙の仕組み(2)

一次選挙(primary election)と二大政党制

 さらに問題なのは、大統領の間接選挙が二段階の間接選挙であることである。つまり、よく知られているように、アメリカでは、二大政党がおのおのが推薦する大統領候補を選出する政党内選挙が大々的に行われる。それは大統領選挙の行われる前年早くから走り出し、大統領選挙の年の二月に、アイオワ州で始まり、五月のスーパー・チューズデイで山場を迎え、さらに東へ、西へと北米大陸は大騒ぎの祝祭の時期に入り、7月に共和党・民主党の大会で候補者が決定される。そして秋に入って大統領選挙の本選が始まり、一一月の第一月曜の次の火曜が投票日となる。つまり政党内選挙二大政党の政党内選挙によってアメリカ大統領選挙は一年に近い、あるいは実際上、一年を超える長丁場の闘いとなる。

 この政党内選挙はアメリカに住んでいないものにはなかなか理解しにくいものである。だいたい、世界中のどの国でも、政党内の選挙が、これだけの注目を集めて本選の一部であるかのように大々的に行われることはない。本来は政党内の討議と党員の投票によってきめればいい問題である。ところが、実は、この共和党・民主党の党内選挙は、州や郡の政府機関である選挙管理委員会によって実施される(『アメリカ政治』80頁)。しかもこの選挙管理委員会の役職には共和党と民主党の代表者が就任し、彼らは税金によって給与をうけとっているのである。これは共和党と民主党に対してのみ、その党内選挙のための財政的支援をし、大規模な選挙を行う便宜を供与するということであって、普通の常識でいえば許されないような公私混同の極致である。しかも、そういう扱いをすることによって、共和党・民主党は大統領選挙にむけての有効な宣伝戦に取り組むことができる。近年の大統領選挙でも一九八〇年の選挙では無所属のジョン・アンダースンが大統領選挙の本選で五七〇万票(得票率6,8%)、二〇〇〇年の大統領選挙では緑の党のラルフ・ネーダーが二八八万票余(同2,7%)を獲得しているが、彼らは各州選挙管理委員会の二月からの二大政党の党内選挙には当然に参加できないから、選挙戦においてはるかに出遅れることになる。これは公平なものとはいえない。このプライマリー選挙といわれる二大政党の党内選挙は、いわば税金を使ったお手盛り談合の選挙なのである。

 このような政党内選挙が行われるようになったのは、一九世紀のアメリカにおいて各州や地域で選挙集会が市町村の集会や選挙の際に二大政党が支持を競う慣習の延長にあったという。つまり一九世紀後半には大統領選(本選)の投票率は八割を超えることも珍しくなく、二大政党が州や郡・市町村組織を呑み込んで選挙運動を展開した。松明行列やピクニックなどの御祭り騒ぎのなかで人びとは投票に動員され、しかも投票は各党が自党の候補者の名前を印刷し配付した色付きの投票用紙をもちいて、政党指導者が注視するなかで行われたという。投票の秘密もなにもない、いわば田舎のムラ的な選挙、一種の動員選挙である。とくに一九世紀の七〇年代以降には、全米各地に都市が増加し、政党ボスが行政と一体になって人びとを利益誘導し、その代わりに投票に動員する「都市政治マシーン」といわれる動きが拡大していた。彼らは、この時期にふえた移民を組織し、不案内な彼らに就職を世話したり、行政と半ば癒着して社会福祉的な救済を行って、アメリカ市民権を取得させ、その見返りにえた移民を投票に動員したのである。

 これは大統領選挙の本選のことであるが、そういう中で、汚職や買収が目に余るものとなり、それに対する批判として二大政党の大統領候補についても選挙で決定しようという改革運動が起きた。その一環として、二〇世紀初頭の頃から、州法が作られて政党内での候補決定の選挙が行われるようになったというのが、大統領候補決定の党内選挙が今のような形で行われるようになった起源であるという訳である。

 ようするに一九世紀に二大政党の選挙が州や郡・地方政府を呑み込んで組織される状態の「改革」として政党内選挙は行われたのだが、それは同じように州や郡・地方政府を呑み込んで組織されたという訳である。こうして二月頃から行われる共和党・民主党の大統領候補を決定する政党内選挙と秋からはじまる大統領選挙の本選は、元来、まったく性格の違う選挙であるにもかかわらず、二大政党制の下で、あたかも連続した一連の選挙であるかのように戦われるというアメリカ独特の選挙風景がうまれた。

 こういう事情をもっともよく象徴するのは、この政党内選挙をプライマリー・エレクション(primary election)ということかもしれない。そもそも、日本では、このプライマリー・エレクションを、普通、「予備選挙」と翻訳する。しかし、プライマリー・スクールといえば小学校のことであることが示すように、プライマリー(primary)とは「首位の、第一次の、主な、最初の」などという意味であって、つまり、これは最初の選挙、あるいは一次選挙と翻訳した方が語義的には正確な言葉である。もちろん、「初歩の、根本的な」というニュアンスを「予備」と理解する予知がない訳ではないが、明瞭に「予備」というのは、この「予備選挙(primary election)」という例以外にはないように思う。それはフランスの大統領選挙の完全な直接投票の第一次投票が「premier tour」といわれるのと同じことである。

 実際、相当数のアメリカ人は、この選挙をまったく大統領選挙の第一次投票そのものと考えているのではないだろうか。そこには単なる政党内選挙を公的な一次選挙と思いこませるのは二大政党制を支える一種の詐術ともいうべきものがあるのではないだろうか。この「予備選挙(primary election)」が共和党・民主党の政党組織への動員を強化し、政党の派閥ネットワークが社会の内側に入り込んでいく重要な手段となっていることは否定できない。しかも、その上に立って、第二次投票の詐術、つまり「州」間接選挙システムを直接投票のようにみせかけ、それによって二大政党制を支えるという詐術がうまく機能し、多くのアメリカ人を自分たちは「民主主義」のお手本となるような活発な選挙をやっているという幻想にからめとられているということになる。思えば単純なことである。

 こうして、二大政党は、各州の郡や自治体に税金をつかって組織された選挙管理委員会を、自分たちの政党内選挙のために使い、党員登録、選挙記録も公的に保存させることになったのである。大統領選から始まったこの動きが、州選出の下院議員選挙にも拡大されたことも特筆すべきであろう。そして決定的なのは、この選挙管理委員会が、それのみでなく、州や郡、市町村の多くの公職の選挙についてもすべて定数一を選ぶ小選挙区制の原則の下に管理することである。

 そして、上級の選挙に勝利するためには下級の選挙に勝利しておかねば成らず、下級の選挙に勝利するためには上級の選挙に勝利しなければならない。こうして、上は大統領から連邦政府、下は州知事・州議会から郡自治体までの公職のネットワークが二大政党によって左右される。その全体がみえる二大政党の幹部は別系統の神経をもって国家機構の中にすみついた寄生動物のようなものであるといえようか。もちろん、それは、アメリカの共和党・民主党という二大政党の政党組織がそれ自体として強力であるということではない。共和党・民主党には政党の執行部や日常的な行動組織のようなものは存在しない。そもそもアメリカの二大政党は他の国々の政党に普通な党費を払うなどして資格をうる正式な党員制度を建前としてももっていない。それは指導者のみによって構成される幹部政党であって、指導者は国家機構の中に寄生しているから政党自身の組織は必要としないのである。その代わりに派閥ネットワークやヴォランティアをもっていれば十分であるという訳である。そもそも一九世紀には党の経費は党を通して官職をえたものから給与の一部をおさめさせるという極端なスタイルが普通であったという。政党幹部は党を通じて国家に寄生し、外からはみえない派閥ネットワークを張り巡らし、表の公職を割き取っていくという構造は、現在でも基本的には同じことである(参照、岡山裕「二大政党」『シリーズ、アメリカ研究の越境』④、ミネルヴァ書房)。

 ようするに、アメリカ大統領選挙の本選は「州間接選挙制」を中心とした「多数」を作り出す仕掛けをもち、その「一次選挙」は不公平極まる公私混同の制度であって、その二つをあわせたアメリカ大統領選挙とんでもない制度なのである。何よりも、それは大統領制、二大政党制、小選挙区制という三位一体のシステムを作り出す上で決定的な役割を果たしていることが重大である。このシステムが一体となって作り出したものであるだけに、その中でアメリカ社会がもつ独特の「多数の専制」「多数決民主主義」はきわめて強力なものである。

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